凍結乾燥機の原理

凍結乾燥とは

乾燥とは、含水物中の水分を気化を経て除去し、より低水分の固形状物を得る一つの方法です。絞ったり、プレスしたり、電気洗濯機の様に遠心分離したり、沈澱させて上澄みを取り除くなど水分を除去する方法は、色々あります。「 乾燥 」と称する脱水方法の特質は、品物の水分を水蒸気にして追い出す事です。物体に含まれた水は、そのまま除去されるのではなく、水蒸気に化けて出ていきます。水分を蒸発させて除去する方法を乾燥と云います。

乾燥のエネルギー …… 蒸発潜熱

天気が良く、風のある日は洗濯日和で、こんな時、洗濯物はどんどん乾きます。この日光と風に相当する条件が、乾燥技術の基本です。

日光 水を、液体(又は固体…氷)から気体(水蒸気)に変えるには、熱エネルギーが必要です。この熱は、温度を上げるのではなく液体を気体に変えるために使われるので潜熱と呼び、蒸発潜熱として使われた分だけ、水は蒸発(乾燥)します。100℃の水1kgを蒸発させるには539Kcal、0℃の水では597Kcalの潜熱を必要とします。(注射で、皮膚をアルコール脱脂綿で消毒すると、冷たい感覚があります。これはアルコールが皮膚から潜熱を奪って蒸発してゆくためです。夏に、水撒きして涼をとるのも同じ原理です。)
乾燥が進むためには、物体から発生する水蒸気を絶えず取り除き、環境湿度を下げてやる必要があります。物体には飽和湿度があり、環境湿度が高くなると、水分の蒸発が押さえられ、止まってしまう性質があります。

 

どんな「 乾燥装置 」も、物干台と同様、二つの機構を備えています。

【沸点と圧力】

「水は100℃で沸騰する。」というのは不正確です。
「水は、1気圧(760mm水銀柱)の環境では」100℃で沸騰します。ガスコンロ(800℃前後)で、お湯をわかすと、ぐらぐら沸騰します。だが、いくら加熱しても100℃より熱い「水」は作れません。この場合、コンロから供給された熱は何処へ消えたのか。蒸発潜熱として消費され、水蒸気となって(水蒸気に取込まれて)出ていったのです。富士山頂は気圧が低く(約2/3気圧)、ここでは、水は約87℃で沸騰して、それ以上昇温しません。水を87℃まで熱したあとの供給熱は、温度を上げる熱としてではなく、蒸発潜熱として使われ、それが沸騰という蒸発現象をおこすのです。
この様に、水には、気圧を上げると沸点が上がり、気圧を下げると沸点が下がる性質があります。
さて、前置きが長くなりましたが、この辺から、主題の「凍結乾燥」へ話しをすすめましょう。

【凍結乾燥】

水について、気圧と沸点の関係を、以下に表示します。(水及び氷の平衡水蒸気圧と呼びますが、沸点という言葉をそのまま使うことにします。)

気圧(Torr) (Pa) 沸点(℃)  
760Torr 101325 100℃ 地球上の平地
500Torr 66661 87℃ 富士山頂
92.5Torr 12332 50℃  
4.6Torr 613 0℃  
2.0Torr 267 -10℃  
0.8Torr 107 -20℃ 凍結乾燥で使われる真空領域
0.3Torr 40 -30℃
0.1Torr 13 -40℃
0.03Torr 4 -50℃
0.008Torr 1 -60℃

(水銀柱高mmで表した気圧値をTorrと呼び、真空度の単位として用います。)

上記の通り気圧を下げると沸点は低くなります。613Pa(4.6Torr)の気圧環境では、水は0℃で沸騰します。267Pa(2Torr)の環境では、沸点は-10℃です。しかし、水は-10℃では凍ってしまいます。
凍結乾燥には、真空を利用するので、真空凍結乾燥とも呼びます。
沸点が-20℃~-50℃となる様な、低い気圧環境(真空室)で、物体を乾燥するそれが凍結乾燥です。真空下では、水は液体では存在できず、固体(氷)又は気体(水蒸気)の形になります。そして、水は固体から気体へ、氷から水蒸気へ変わります。
固体が気化する現象を、昇華と呼びます。

昇華
水を、液体から気体に変える事を蒸発(Evaporation)と呼ぶのに対し、固体(氷)から気体に変える事を、昇華(Sublimation)と云い、これに必要な熱を昇華潜熱と云います。
◎ 昇華潜熱
氷を気体に変えるには、熱エネルギーが必要です。この熱は、温度を上げるのではなく気体に変える為に使われます。アルコールで消毒すると冷たく感じる・夏水撒きをして涼を取るなどは潜熱を奪って蒸発していくからです。

凍結乾燥は昇華による乾燥

一般の乾燥が、液体から水蒸気へ、蒸発による乾燥であるのに対し、凍結乾燥は、固体(氷)から水蒸気へ、昇華による乾燥であるという際立った特徴を有します。